まつな

赤いくらげの人

19.12.5

街を転がる風の匂いはすっかり年の瀬のそれで

人間だけが少し浮き足立っているこの季節は好き

 

行けなかった百草園 信号待ちする世田谷線 寒さより喉の渇きを優先して注文した後に後悔する事 持ち歩くくたびれきった本 景色や匂いで記憶に残る人は都合良く忘れられないから卑怯だ

 

渋谷区雑居ビルの一角 水槽の様な窓から外を眺める 水槽を流れいく生活の群れに目眩する 有線から流れる流行りの曲で我に帰る

入れてもらったコーヒーはすっかり冷めていて飲み口に沿って薄く茶色くなったカップを その飲み口に従ったまま一思いに飲み干す だらっとしたクリープの甘味が喉に溜まる

 

唾を吐いて捨てた“穏やかな暮らし”に今になって手を伸ばす 同時に「お前が捨てたんだ」と過去の自分が責め立てる 嫌いな自分と好きな自分の混在する50キロちょっと肉の塊は今日も今日とて意思を持つ事を諦めないらしい

 

探し物が何なのかなんてとっくに忘れたし思い出す気も今となってはしない 何を探してるのか分からないのに毎日必死に探し物をする自分が滑稽すぎて少しだけ愛おしくなる  

2019年も生き延びたんだなと口から溢れる

 

19.12.5 渋谷区 曇り 11℃